理事 藤井良一

名古屋大学は、2003年1月に「男女共同参画室」を創設し、同年4月には部局長で構成される「男女共同参画推進委員会」の下に「男女共同参画推進専門委員会」を設置し、男女共同参画を推進する組織的な充実をはかってきた。男女共同参画室は、毎年度「男女共同参画推進重点項目」に沿った企画を立案し、同専門委員会と連携してその実現に努め、大きな成果をあげてきた。

1999年6月に施行された男女共同参画社会基本法は、男女共同参画社会の実現を「21世紀の最重要課題」として位置づけ、性別による偏りのない社会システムの構築を目指している。本学は、いち早く男女共同参画推進に取り組み、2001年から2002年にかけて、評議会において二度にわたり「名古屋大学における男女共同参画を推進するための提言」を決定した。これらは他大学にも少なからぬ影響を与えた。また、「名古屋大学運営の基本姿勢」においても、男女共同参画を本学の重要な事業の一つとして位置づけている。

さらに、本学は、我が国を代表する高等教育研究機関の一つとして、広く社会に対して知的貢献を果たす責務を負っている。この点に関しては、2004年に「あいち男女共同参画社会推進・産学官連携フォーラム」を結成し、この地域における男女共同参画の推進のための活動に取り組んでいる他、学界諸組織や他大学との連携・情報交換にも努めている。

こうした精力的な活動の結果として、本学における男女共同参画の取り組みは、理念や提言の段階を経て、具体的な施策の企画・立案・実施の段階へと移行しつつある。その具現化として、2007年には、本学提案の「発展型女性研究者支援名大モデル」が文部科学省科学技術振興調整費「女性研究者支援モデル育成」事業に採択された。同経費は、女性研究者がその能力を十分に発揮できるような研究環境の整備や意識改革のための取り組みを支援するものであり、同事業実施のために4名の特任教員と1名の研究員が採用された。本年度は、この事業の拡大及び一層の充実を図ると共に、「女性研究者支援モデル育成」事業最終年度としての集大成ともいうべく以下の諸施策に取り組んだ。

第一に、多様な勤務形態に対応できる職場環境の整備として、昨年度に引き続き育児短時間勤務制の充実を図ると共に、2009年7月には本学鶴舞地区に「あすなろ保育園」を開園した。また「こすもす保育園」に関しては、開園(2006年4月)時に比べて本学利用者が急増したことから、保育園を増築し2009年9月から増員を実現した。更に同年9月には本学内に学童保育所「ポピンズアフタースクール」を設置した。この施設は全国初の大学内学童施設であり、これまで育児と仕事の両立において立ちはだかっていた「小1の壁」を越える解決策となったばかりでなく、本学教員や民間企業が子供達に語学、芸術、体育、実験・実習、自然観察などの様々な企画を提供する「産学連携型施設」として全国から大いに注目されるものとなった。また大学構成員対象に開催された「子育て支援セミナー」においても本学環境学研究科による新聞紙エアドームの作成が実施され、自然科学を通した遊びを子供達が直接体験することとなった。これら育児支援に関する取り組みについては、新聞・テレビ等のマスメディアに度々取り上げられたり、他大学や学会における男女共同参画シンポジウムでの講演依頼が続いており、如何に大学の特徴を活かした実効性の高い取り組みであったかが伺える。現在は「子どもの病気と仕事との両立支援」に関する意識調査(アンケート)を実施するなど病児保育を視野に入れた次のステップへと展開を図っている。

第二に、女性研究者の増加に関する支援として、昨年度に引き続き「発展型ポジティブ・アクションプロジェクト」の実施について検討した。本学では、2006年度より公募人事HPに女性教員比率向上のための積極的改善措置の文言を掲載し、本年度も女性研究者採用に関するアンケートを各部局・研究所に対して実施すると共に、各部局や研究所を対象に過去数年間に渡る女性研究者充足率の変化を調べ、女性研究者採用増加率を比較するために定式化するなど具体的な提案を行ってきた。引き続き女性研究者増加のための努力を続ける所存である。

第三に、女子生徒・学生・若手研究者への支援として、2009年8月には、女子中高生理系進学推進セミナー、理系女子学生エンカレッジセミナーとして若手女性研究者サイエンスフォーラムを同時開催した。ロレアル−ユネスコ女性科学者日本奨励賞受賞者によるエンカレッジ講演、本学女性研究者によるミニ講義を実施し、更に新しい試みとして、本学女子学生・若手女性研究者による学術ポスターセッションを企画した。ポスターセッションでは理系部局研究科長などによる投票審査によりベストプレゼンテーション賞が決定され、受賞者4名への総長表彰も行われるなど女性研究者育成への本学の関心の高さが表れたものとなった。また、本年度の女子生徒・学生への支援については、本学理系学部に在籍する女子学生有志グループ“あかりんご隊”の活躍を特筆すべき点として挙げておきたい。名古屋市科学館において開催された「青少年のための科学の祭典2009名古屋大会」において女性研究者と共に実験を行ったり、名古屋大学オープンキャンパスにおいては女子学生相談コーナーを自ら設け、女子高校生の理系進学に対する不安を払拭してくれた。更に本学理系女子学生を対象としたエンカレッジ交流会を女性研究者と共に企画運営するなど、その活躍ぶりは素晴らしく、新聞社による取材や、中学、高校からのセミナー依頼も寄せられている。

第四に、学内の女性研究者間のネットワーク構築のために、女性研究者交流会での意見交換を参考にして、ソーシャル・ネットワーク・サービスなどを通じたインターネット上での交流のための環境整備を進めた。その他、本学構成員に出産・育児中の様々な支援制度を知ってもらうために啓発ポスターを製作したり、本学研究者・大学院生・研究員を対象として「マインドマップ講習会」を開催するなど新しい取り組みも行っている。特にマインドマップ講習会は、発想の地図を描きながら思考の整理・問題解決・発想拡大を行う新しい整理術を提供するものであり、研究者達から論文や申請書、学会発表準備における効率が著しく向上したと大変好評を得ており、今年度は10回開催することとなった。

第五に、2009年10月にあいち男女共同参画社会推進・産学官連携フォーラムとの共催で男女共同参画推進シンポジウム「女性研究者のキャリア深化のためのシステム改革」を開催した。本シンポジウムでは、上記「発展型女性研究者支援名大モデル」の最終年度としての総括を行うとともに、次のステップに向けた新たな展開を目指した。学・官を代表する男女共同参画推進者による基調・特別講演に加えて、愛知県、名古屋市、愛知県経営者協会、名古屋大学の産学官パネリスト及び文部科学省科学技術振興調整費「女性研究者養成システム改革加速」採択機関を迎えてのパネルディスカッションを行い、女性のキャリアアップ支援や大学における男女共同参画の取り組みについてグローバルな視点で討論が繰り広げられた。更に、全国の大学・研究機関40機関による女性研究者育成・支援事業を紹介するポスターセッションも実施され、女性研究者の支援・育成事業が全国的な規模で展開されていることを強く認識させる企画となった。

以上のような男女共同参画社会の実現に向けた本学の活動は、内外から高い評価を得ていると自負している。今後の活動の一層の発展のためにも、本報告書を一読いただき、率直なご意見とご批判をいただければ幸いである。

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