第3節  介護支援アンケート結果

1)介護に関するアンケート結果の概要

調査の主旨
本学の男女共同参画推進の一貫として、少子高齢化の進む社会の中で、本大学の教職員・学生が介護に関してどのような状況にあるかを知るために、さらにその解決に、大学がどのような支援ができうるかを模索するために、平成14年9月から10月に介護に関するアンケートを名古屋大学男女共同参画推進委員会WGで実施した。また、今回は構成員が持つ介護上の問題点とその支援策を模索するためのアンケートを目指して、記述回答部分を多くしたところ、非常に沢山の回答を得ることとなり、予想をこえる膨大な回答のために充分に解析できない部分が多々存在するが、以下にその結果の概要を述べる。

(1)回答者の背景
  (a)アンケート回答者は1623人、有効回答者は1599人(回収率 25.4%)
  (b)年齢はおおよそ20代、30代が各30%;40代、50代が各20%であった。
  (c)性別は男性 44%;女性 53%
  (d)身分は大学院生、事務職員、技術職員で各20%強を占め、合計75%であり、教員その他で25%を占めた。
  (e)婚姻状況;未婚、既婚がほぼ半々で、単身赴任(別居)が65人と多い。

(2)結果の概要
(A)要介護者(介護を要する家族)を持っている(持っていた人)への質問
 有効回答者のうち、要介護者を持っている人(持っていた人)は回答者の321名(20%)が存在したが、介護対象者は祖母、実母、実父、祖父の順であり、女性がより長寿であることと、配偶者を看取った後に残った女性が子供の介護を受けるという日本の現状を反映している結果である。介護への参加は、半数の人ができでいないと答えたが、中には介護の殆どを負担していると答えた人が71名存在した。介護と仕事の両立を実施している人であり、この人達への理解と支援が現実に求められる。
次に、要介護者を持つ人(持った人)に介護上の困難な事柄を訊ねた。
@ 時間調整上の困難を99名(31%)が挙げており、職場を休めない、休みにくい(21)、早退・遅刻・休みを取った(16)、勤務の不規則・時間外業務・長時間勤務などが多く、職場の理解とサポート体制の確立が求められる。次に病院への通院・付き添い・面会時間と突然の病状変化への困難も事項としてあり、職場の理解と支援のみで無く、業務的余裕が求められている。さらに3つ目として要介護者が遠隔地に居住するための時間的困難と、週末を介護に費やしたという大学人特有の事情も存在する。

A 体力と健康上の困難を78名(24%)が答えており、特に女性が多かった。 死にたい程に非常に疲れた(23)、夜間の世話・病院での泊まり込み介護などによる疲れを訴えており、結果として介護者自身の健康障害・腰痛・入院・現在も残る体調不良を答え、精神的ストレスによるカウンセリングも受けている。自身の体力の無さも回答としてみられることから(5)、要介護者の多くは超高齢者であり、介護する人も中高年齢者であることから体力も衰えつつあり、介護における重大な困難を感ずるところである。社会支援体制がさらに望まれる。

B 経済的困難(47名)としては、まず帰省のための交通費であり、これは、単身赴任者の多い大学人の特殊性も関係すると思われる。社会共通の問題として、医療費・通院費・介護用品購入がある。また、介護休暇利用のため収入減(共済保険から40%の手当金のみ)、給料でも足りずに借金をしたという深刻な訴えもあった。介護をする家族に対しては、医療費・ヘルパー雇用費用以外にも経済的援助が望まれる。

C 社会的支援体制に関する困難(49名)については、支援体制の充実により助かっていると答えた人が7名いるものの、体制が不充分・入所待ち・施設が実態に合わない・受ける介護レベルに格差があり過ぎ・夜間は家族の介護であり個人的負担が大きいなどの社会的支援体制のさらなる充実と、要介護者の個々の実状に応じた介護の多様性が望まれている。社会支援制度に関する情報の不足という要望に対しては、大学としても相談窓口を設置するなどの体制が組める事項と考える。

D 家庭内の変化(80名)は女性が多く答えている。いつも介護が家庭生活の中に存在するために、家庭のリズムが乱れ、介護者の疲労・ストレス・病気が生じ、子供への負担と介護をめぐる家庭内の争いが生ずるという、要介護者を抱える家庭の困難性が回答されている。家族で協力すると云う答えもみられるが、社会的体制の充実化の問題が無論大きいが、個々の家庭にその解決策を見つけだす努力と共に、職場にいる介護家族への理解・支援も重要と考える。

E そして、これらの人のうち介護休暇を利用した人は6名に過ぎない。休暇制度を利用しなかった理由として、休暇制度が未設定の時期の人は別として、休暇制度の存在そのものを知らなかったり、職場の理解と支援が得られないと感じた、介護休暇を取得できない身分をあげた人も多く、大学としては休暇制度の情報の共有と、これらの人に対する理解と支援をする体制が求められる。また介護休暇制度の実態が、介護必要状況の実態と合致しないために休業しなかったと答えた人や、一つの病気に対して一度のみしか取得できないために、介護休暇を申請することを考慮する間に要介護者が死亡してしまった人もおり、現在は後悔しているという記述もみられた。
ここでも職場の理解とし支援が求められると共に、休暇の肌理の細かい運用法が望まれている。介護休暇を非常勤職員や学生へも適応できる方法の模索も必要と考える。
F 介護に携わった経験から大学に望む事柄(67名)のうち、大学が応えられる事柄としては、介護情報の提供、介護休暇を取得しやすい職場の環境づくりに関するものが多項目で多数の人から、さらに介護者に関する精神的カウンセリングも希望されている。介護休暇の介護の実態に合致する運用(介護休暇による時間休、日休、時間短縮業務なども含める)と代替要員の確保の希望は多く答えている。

(B)回答者全員に対する将来の介護についての設問
   
@ 将来に介護のために離職するかもしれないと答えた人は668名(42%)存在し、多くの人が介護に対して予測する不安を抱えていることが明白である。うち女性は男性を大きく上回っている。両親の介護をするものは他にいないと予測し、しかも介護は女性が担当するものとの概念が根底に存在するように思う。長女である、長男の嫁であるという理由も述べられている。

A 将来に介護のための離職は無いと答えた人(204名)は比較的男性が多い。主たる収入源を担うという項目は特に男性に多い。男性が介護を配偶者に任せる、自分の他に介護者が存在すると答えている人については、家に居る女性を念頭においているものと考えられる。この項の設問結果と前項の介護離職の可能性を予測する人に女性が圧倒的に多いことを併せて考えると、介護は女性の役割として男性も女性も考えている現実が存在するように思える。

B 将来の介護の為に離職する可能性を不明と答えた人は40%いるが、要介護者の状況とともに、自身のその時の状況が予測できないとした人が多い。おそらくは学生と未婚の人が多いと考える。次に家族で助け合えるのでは――と答えた人が多く、社会的支援の充実が不明と答えた人は少ない。この項目で将来のことは分らないと答えた人で、社会的支援制度を活用しての家族の介護を考えている人は少ないように思える。介護必要状況の発生は予見できるものでは無いことを考えると、介護に関する社会支援制度および介護休暇に関する正確な情報を、常には考慮する余裕のない構成員に伝えることは今後大切なことと考える。

C 次に介護による離職を避ける解決方法の質問には894名が記述し、関心の高さが伺われる。まず、社会に対しての介護施設の充実と社会支援制度の改善が最も多いが、同様に社会制度への要求として経済的援助と介護サービス料金の値下げが望まれている。介護休暇の充実として長期間の介護のための休業、日休、時間休を介護休暇として認めること、さらに介護休暇の有給化と復職の保障を記述している。一般的には、育児は、その休業の終了予測は可能であるが、介護については必要期間は予測し難い。このために現在の6ヶ月以内で一回のみという介護休暇の規定は、利用する上で問題点となりうる。
次に職場に対しては、時間短縮(時間休業を含む)、work sharing, flex timeの導入、さらに職場の理解と支援、残業の廃止など比較的実施へ可能性のある事項と共に代替要員などによる休暇取得者の業務を補う人的サポートも記述されている。
男女共同参画WGに対しては、介護情報の共有化、介護相談窓口の開設、カウンセリングを実施することを望んでいる。家族状況の改善のために、単身赴任者の状況改善、予め家族で介護について話し合うことも提案されている。
介護休暇が現在は一つの疾患に対して一度のみで連続6ヶ月までしか認められず、無給であることが法的規定であるが、これに対して、より介護の実態に即した休暇制度を望み、しかも休業したら経済的に困る経済的状況に陥る現実を見つめた意見と言える。

(C)介護休暇制度に対する設問

@ 介護休暇を取得した職場の変化についての質問には33名が答えているが、総じて職場の状況は大きくは変化しなかったものの、欠員の負担は助け合っていることが記述より分かる。ここでも職場の協力が必要であり、介護休暇制度に対する職場の理解が必要であると答えている。休暇制度の説明と浸透活動が必要である。
A 介護休暇をスムーズに取得するための方策には30%の人が提案を寄せている。まず多くの人が職場の理解と支援、職場の環境づくりと復職が容易であることを挙げています。次に制度としての代替要員などの人的サポート、業務的余裕、flex time, work sharingの導入、さらに介護休暇による時間休、長期休、不連続休を可能にするなどの業務規定の改善をいれての介護者への支援を答えている。また、回答からワーキンググループにできることとして、介護休暇に対する理解を助ける活動が存在する。

(D)社会資源としての介護支援サービス制度についての情報と知識については利用経験がある、理解できていると答えた人は合計207名(13%)であり、多くの人は情報を持っていない。
さらに介護サービスについての専門家による情報提供や相談窓口の設置は学内に必要である、あったほうが良いと答えた人は1,381名(86%)であり、行政機関に相談すれば良い、必要無いと答えた人を大きく上回った。今後ワーキングとしては情報提供と相談窓口の設置を実行する必要がある。

(E)大学に対してその他に希望する介護支援策については(77名)、介護問題に対する情報の提供、復帰しやすい職場の理解と支援、介護者に対する精神的支援などの既出の解決策が挙げられると共に、介護支援は社会全体で行うべきであり、大学からの支援は必要無いとの答えもある。確かに介護支援制度と施設は社会が担うものであり、大学の守備範囲ではない。しかし要介護者を抱える構成員がある場合は、これらの人に理解と支援をもち、構成員が働きやすいように、相談窓口やカウンセリングを行うことは、職員・学生に対する厚生事業として位置付けられる。また、介護情報の提供も必要なことと考える。 

2)介護についての支援策(提案)
(1)介護休暇の運用について、介護者の実態に沿う支援的運用を希望する。
(a) 各個人の業務内容を個々に専門化するのでなく、work sharingの方向へ少しずつシフトし、業務内容の共有する部分を増やす。
(b) 介護休暇取得者の存在する職場に対する人的サポートを行なう。
(c) 育児支援制度に準ずるような、介護休暇による時間休(部分休業)、日休および週間休、長期休などの休業を認めて欲しい。
(d) shift time, flex time など業務割り振り時間制を、介護者の必要時に導入して欲しい。

(2)介護休暇制度および社会的介護支援制度について、講演会などを開催し、構成員に介護と仕事の両立のための情報を提供する。

(3)介護者を支援する窓口として、介護支援制度の情報提供、介護休暇取得相談、さらに介護者への精神的カウンセリングを行うセンターを設置する。