子育て

私と名古屋と保活

理学研究科 坂内 博子

保育所に入れるか入れないかは出産後仕事に復帰できるか否かの生命線であり、我々研究者にとってもその重要性ははかりしれない。「就活」・「婚活」に並び、「保活」(=子どもを保育所に入れるために保護者が行う活動)という言葉ができて久しい。高まる保育所の需要に対して、保育所の整備がなかなか追いついていないからである。この状況は日本に限ったことではなく、フランスのパリでも「妊娠検査薬で陽性がでた瞬間に電話して、保育所の予約をする」という都市伝説が存在するほどである。このような中、どのように保育園を探し、我が子を入所させるのか? 何が成功の秘訣か? これと言った必勝法はないだろうが、たくさんの事例をみることでそれに近いものは見えてくると思う。このコラムでは私が名古屋に赴任する際の「保活」の様子を紹介させていただく。たった1例ではあるが、皆様の参考になれば幸いである。

 

平成24年

 

当時私は新しい研究の方向性を模索し、就職活動中であった。研究テーマを基準に考えるも、当時2歳の娘ともうすぐ生まれる第2子のことを考えると、やはり「信頼して預けることができる保育園があるか?」「その保育園は研究生活との両立に必要な支援(延長保育・夕食の提供)を行ってくれるか?」がネックとなり、当時住んでいた場所から通えない研究機関にはなかなか応募ができなかった。そんなとき、名古屋大学に「女性限定教員の公募」を発見した。研究テーマも魅力的、名古屋大学の男女共同参画室にはたくさんのサポートがある。これならできる!と思い、応募した。

 

幸いにも面接選考に残ったとき、ふと現実に気づく。 名古屋市は当時,待機児童数全国ワーストの自治体!!! しかも、大学の保育所の申し込みは1ヶ月前に締め切られていた。夫の職場は横浜。2歳の娘と、これから生まれてくる子をどう養育するのか?

 

それでも、夫は「名古屋大学なら一緒にがんばろう」と、サポートしてくれた。「2歳の娘はここで自分が見る。乳離れしたら、必要があれば生まれて来る子も一緒に自分が一人で面倒をみる!」と宣言してくれたのである。この心強いサポートに背中を押され、面接選考の準備を全力で行った。と同時に、生まれてくる子の公立保育園の申し込みに向けて、願書・勤務証明書・源泉徴収票など、必要書類の取り寄せをおこなった。千種区役所にも、「まだ確定ではないし生まれてもいないのですが…」との前置き付きで事情を話し、何度も質問の電話をした。大変親身に対応していただき心強かった。(不採用だった場合に備えて、当時いた研究所内の託児所にも応募した。)

 

名古屋大学における面接選考の10日後、出産予定日のほぼ1ヶ月前だが、急に産気づく。完全に入院準備を怠っており、カバンにはタオルや着替えが入っていない。それでもコンピュータと保育園の書類はカバンに入っていた。急いで生まれてきた赤ちゃん(お姉ちゃんそっくりの女の子でした)の寝顔を見ながら、コンピュータで保育園の応募書類の作成。病院まで赤ちゃんに会いに来てくれる友達に、応募書類のPDFファイルを印刷してもってきてもらって(出産がもっと後だと思っていた夫は、海外出張中だったのである!)、それに署名捺印して、病院のコンビニで封筒とマジックと切手を買ってきて郵送に備えた。赤ちゃんの名前の漢字はまだだったが、読みは決まっていたので、書類に名前を入れることができてよかった! 退院前日、出張から帰って来た夫に郵送してもらって、無事応募完了。採用証明書は発行まで時間がかかったので、後日名古屋の所属長から直接区役所に郵送していただいた。

 

産休中には、名古屋大学の「こすもす保育園」追加募集の知らせが入る。軽く赤ちゃん返りした上の子が名古屋で暮らす可能性も考慮にいれ、二人分応募した。保育園の申請書類を書くのは、研究費を申請することに似ていると思う。研究の必然性を強調するように、いかに保育を必要とするかをアピールする。研究者は書き慣れている分、公立の保育園に応募するとき有利なのではないかと思う。

 

振り返ると、就活と保活、ほぼ同時進行でやっていたことになる。しかも生まれる前から、採用が確定する前から、保育園に応募するという見切り発車。パリの都市伝説とまではいかないが、結構大胆にやったものである。しかしあらゆる可能性を考慮にいれ、ルールが許す限り最大限の努力をしたおかげで、現在の研究生活がある。結局、生まれて来た赤ちゃんは、私と名古屋に住み千種区の公立保育園ですくすく育っている。上のお姉ちゃんは関東でお父さんと一緒に暮らし、いつもの保育園に進級した。毎日Skypeで話をし、2週間に1回ペースで会う。

 

最も強調したいことは、保育園に無事入園し、名古屋と関東での生活が可能になったのは、名古屋大学の先輩教員のご尽力のおかげであるということである。中でも、子育て中の女性教員にはいくら感謝しても感謝しきれない。「保活」に一刻も早く動くことを勧めてくださったこと。保育園の場所(登り坂がある!)や持ち物(保育園にはフトンが必要!)や雰囲気など、実際にお子さんを通わせている経験から詳細な情報を教えてくださったので、迷わず応募できた。「こすもす保育園」の追加募集の情報をすぐに知らせてくださったのも、彼女らである。また、研究と生活の両立できる方法のアドバイス、いざとなったら助け合おうと住んでいる場所も教えてくださったので、私もそれに合わせて名古屋生活を確立することができ、安心して着任できた。

 

「保育園」に縛られた就職活動から一歩踏み出して、女性研究者がその個性と能力を生かして輝いている名古屋大学に来て、本当によかったと思う。「保活」は ちょっと大変で運の要素も大きいけれども、早めに動いて素晴らしいアドバイザーが周りにいれば、成功率も選択肢もぐっと増えるように思う。もし「保活」に恐れをいだいているならば、まわりの先輩パパママや名古屋大学の男女共同参画室に相談してみていただきたい。きっとあなたにあったアドバイスが得られるはずである。また、時々刻々変化する保育園情報は言葉の壁のため外国人には届きにくいという現実がある。もし保育園が必要となりそうな外国人学生・研究員・教職員の方がいらっしゃったら、できるだけ早めに(なるべく赤ちゃんが生まれる前)に一緒に男女共同参画室に相談して頂ければ幸いである。