7.セクシュアル・ハラスメントの防止及び男女共同参画推進を目指す不服申し立て等の制度整備について

(1)本学セクシュアル・ハラスメント防止・対策ガイドラインの運用とその見直しの経緯
平成9年から翌々年にかけて、民間企業及び行政機関等を対象としたセクシュアル・ハラスメントの防止等に関する諸法規が相次いで制定され、 11年4月1日には、改正男女雇用機会均等法、人事院規則10-10、文部省セクシュアル・ハラスメント防止規程等が一斉に施行されることとなった。
本学におけるセクシュアル・ハラスメント対策は、9年4月、学生相談室にセクシュアル・ハラスメント相談窓口を設置したことに始まり、12年2月に は、「名古屋大学セクシュアル・ハラスメントの防止・対策等に関するガイドライン」及び「名古屋大学におけるセクシュアル・ハラスメントの防止・対策 等に関する規程」が制定され、12年度からセクシュアル・ハラスメントに関する苦情処理の取り組みが本格化した。

@ ガイドラインの運用状況をみると、12年度には、主として広報活動、相談及び被害の救済の申し立てに関する対応(相談員による相談受付及び カウンセリング、調査の申し立てに基づく対策専門委員会による調査)が行われた。被害の相談及び救済の申し立てが相次ぎ、防止・対策委員長、 相談員、対策専門委員等が対応に追われた。救済措置、2次被害対策、防止・対策委員会と部局との連携、専門委員の過重負担等に関する課題が 続出し、制度的不備や対応に際しての準備不足が明らかになった。

A 13年度においては、広報及び相談に関する対応の他に、特に、前年度の事態を深刻に受け止め防止徹底の為の対策を実施した。13年10月1 6日には評議会において「名古屋大学ハラスメント防止基本宣言」を制定し、本学が教育、研究、就業の場におけるハラスメントを徹底して排除する 方針をとること及び構成員に対する厳しい自己規律の維持を呼びかけた。また、全職員対象、幹部職員対象の講習会を実施し、各部局に対しては、 教職員、学生向けの講習会等を実施するよう要請した。制度上の課題については、現行制度を抜本的に見直し、ガイドラインの改正作業を行った。

(2)ガイドライン改正と不服申し立て制度の整備
@ 新ガイドラインでは、苦情相談及び苦情処理の対象となるハラスメントとして、性的関心や欲求に基づく言動によるセクシュアル・ハラスメントだけ でなく、性別により役割を分担すべきとする性差別的言動及び処遇についても防止の対象とすることを明記した。また、これらのことに起因して発生 する就労・就学環境の悪化、利益・不利益の供与、誹謗中傷等にも対処し、就労・就学者の権利の回復に努めることを約束している。こうしたセクシュ アル・ハラスメント防止の定義は、人事院規則10−10のガイドラインに沿ったものであり、また男女共同参画社会基本法に定められた基本理念(第3 条(男女の人権の尊重))に合致するものである。

A 苦情対応制度に関する改正の要点は、専門相談員が常駐する相談所の新設、防止・対策委員会を改組し機動的な決定や措置を行えるように するなど、早期発見・早期対応を可能にする苦情処理体制の整備を目指すものとなった。本学においては申し立てにかかる被害者救済を迅速に実 施する上で、心理、医学、法律実務における専門的技術力の強化、法的紛争処理手続きの整備など、取り組んでいかなければならない課題が山積 していることからガイドライン改正後は、不服申し立て制度の整備充実に向けた取り組みをさらに進める必要がある。

(3)構成員の意識改革について
@ 12、13年度の苦情処理を振り返って、本学の現状における最大の課題は何かというと、構成員一人一人の意識改革であるといえよう。ガイドライン 制定後も依然として、セクシュアル・ハラスメント被害の問題は、「個人の恋愛に関するトラブル」、「特別な人の問題」として理解される傾向があった。 周囲がこうした認識を有していると、被害を訴える者は孤立し、そこに無責任な噂が追い打ちをかけ、本人は傷つけられる上に居るべき場所を失うと いう、最悪の事態に陥りかねない危険性がある。

A セクシュアル・ハラスメント等の問題は個人のモラルを規制する問題ではなく、就労・就学・研究の権利の侵害、良好な環境の維持管理の問題で あって、組織として対応しなければならない問題である。残念ながらこうした認識が大学側においても徹底していなかったという反省がある。また、構 成員各自においても、就労・就学・研究の場において、性的関心に基づく言動や性別役割の期待を押しつける言動を当然視するような価値観や意 識を払拭する必要がある。こうした価値観や意識が構成員に共有されているような環境では、権力関係に逆らって、上司や指導教官を訴える者の言 動は異様なものとされ、救済どころか排斥の対象となってしまうおそれがある。

B 苦情を訴えることでかえってひどい目に遭うならば、訴える者はいなくなり、被害者は沈黙し続け、それにつけいるかのごとくセクシュアル・ハラス メント等が横行することになる。構成員の意識が変わらず就労・就学・研究の環境そのものが変化しなければ、苦情処理制度をいくら整備していって も、救済等の成果をあげることは困難である。今後、全教職員に対する研修の義務づけ、男女共同参画社会をテーマにした授業カリキュラムの整備 等、予防的施策の拡充が急務であるといえる。

backnext