【第2節】 名古屋大学の現状と課題の報告


飯高報告
後藤報告


伊藤 第2部を再開させていただきます。ご案内のとおり、本学では各部局に対しまして7月に男女共同参画推進に関するアンケート、さらにそれを踏まえまして、8月に部局長ヒアリングを行ったところでございます。で、第2部ではこれらの結果につきまして、若干の分析を加えながら、本学の男女共同参画推進の実状、さらに男女共同参画に関して本学がどのように考え、そしてどのように取り組もうとしているか、部局を中心にした全体像についてご報告をさせて頂きます。報告は男女共同参画推進ワーキンググループのメンバーでございます。まず、飯高哲也先生にお願いをし、そして母体保護の観点から後藤節子先生に実状についてご報告をお願いしたいと思います。それではよろしくお願いします。

図1 図2
図3 図4
図5 図6

飯高 環境学研究科の飯高と申します。今までたくさんシンポジウムではしゃべってきましたけれども、今日の参加者の数が一番多いような感じがします。私は専門は心理学をやっていますけれども、心理学でこれほど人が集まったことがなかったので緊張しています。それでは30分ほどになりますけども、今年行いました男女共同参画のための部局長アンケート調査結果について報告させて頂きます。

本ワーキンググループは平成14年3月に「名古屋大学における男女共同参画を推進するための提言」というものを発表しました。以下、本学提言としますが、この本学提言の内容に関して各部局の意見を聞き、今後の本施策の推進に役立てるためのアンケートを行いましたので、その一部を発表させていただきます。(図1

対象と方法ですが、本アンケートは平成14年7月から8月にかけて全学の40の部局を対象に行われました。その内容としましては、本学提言についてのアンケート、それからポジティブアクションに関するアンケート、それから就業就学環境の改善に関するアンケート、この3つの多肢選択、意見記述を含む29項目の質問を行いました。全部局から回答を頂いたなかで直接ヒアリングの対象となりました23部局の回答を集計いたしました。集計された部局というのは、教官数10名以上もしくは全学の業務に関係のある部局といたしました。(図2

集計の対象すなわち、今回の発表の対象となった部局は、この通りです。(図3

結果に移りますが、まず本学の提言についてお聞きしました。本学提言をどのような対象に対してどのような形で周知を行ったかということですが、この緑の部分がその提言の冊子を直接配布した割合です。教授会構成員、その他の教官に関しては75%程度が直接配布されております。職員に対しては約61%が配布されました。大学院の前期、後期課程の学生に関しては、この程度の周知です。この30%というのは院生を持たない部局も含まれますので、大学院生に対してもおおむね周知はされたと考えられます。(図4)提言では各部局において男女共同参画推進委員会の設置を進めていますが、これはその平成13、14年度における設置率です。約半数の部局が推進委員会を設置しています。未設置が半分ぐらいあるわけですが、これは小部局なので新たに委員会をつくる必要がない、あるいは女性教官がすでに多いということなどから、設置を見合わせた部局になります。(図5

男女共同参画の理念について、全学における達成目標の設定に対して賛成または反対の意見をお聞きしたところ、全体の約75%程度が賛成、あるいはどちらかといえば賛成、という意見をお示しになりました。明らかに反対という部局はありませんが、どちらかといえば反対という部局が1部局ありました。その理由としては、各部局で事情が異なるということ、それから部局内で統一できないなどの理由で、どちらかといえば反対、あるいはその他というふうにお答えになった部局がありました。(図6
図7 図8
図9 図10
図11 図12

本学提言では8項目の内容が提案されいますが、各項目の重要度について複数回答でお聞きしたところ、上から順番に介護・育児に対する支援が重要であると答えた部局が最も多く、次いで教職員・学生に対する周知、セクハラの防止、教育研究の男女共同参画の推進、ポジティブアクションの採用などの順番に重要であると答えた部局が多いということがわかりました。(図7

女性教官が増えた場合の影響について、これも複数回答でお聞きしたところ、このように最も多いのは、優秀な女性が活用できるという点、それから男性にない発想があるんではないかという意見、それは男性がそういうふうに思ったということですが、以下、男女平等を学生に示す良い機会である、それから女子学生のロールモデルとして女性教官は重要であるなどの意見が寄せられました。(図8

続いてポジティブアクション、すなわち女性教官をより積極的に採用するということですが、それについて質問しましたのでご報告します。その前に国立大学協会が平成12年に提言を行っていますが、その中では男女構成のバランスを考慮したポジティブアクションを取り入れることが望ましい。そのための具体的な達成目標とタイムテーブルを設定することが必要である。博士課程の女性比率を考えると、2010年までに女性教員比率を20%とする達成目標が適切である、などと提言されています。(図9

このことを踏まえて、本学における女性教官数の年次変化を示しています。これは平成2年度が一番左で、今年の平成14年度はここになりますが、女性教官、教授、助教授、講師の数を割合を表しています。平成2年度の3%程度から現在7.5%程度に上昇しています。このままリニアに上昇しますと2010年には10%程度になります。エクスポネンシャルに上昇しますと、14%程度になりますので、おおむね現状で推移した場合の予想としては10%から14%くらいが2010年における予想と考えられます。国大協の提言の達成のためには年間約20人程度の女性教官の採用が必要ということが計算されます。これは教授、助教授、講師数であります。(図10

助手と大学院生を含めた数の年次変化を示しますが、横軸が時間で縦軸が割合になります。この赤のプロットが今示した教授、助教授、講師の割合になります。水色が助手の割合になりまして、紫が後期課程の卒業数、黒い棒グラフが全体の博士課程後期の学生数に占める女性の割合を示しています。このように大学院生における女性の割合は年々増加しておりまして、現在卒業生で20数%、大学生では30%程度が女性になっています。また、助手に占める女性の割合も現在15%を越えていまして、全体の教官数としますと約10%女性ということになります。(図11

このような現状を踏まえて各部局に国大協の提言を達成する可能性についてお聞きしました。国大協提言というのは2010年に20%、これは助手を含めない数ですが、それが可能かどうか、そういうことを聞いたところ、可能、あるいは、どちらかといえば可能と答えた部局が約50%ありまして、どちらともいえない、どちらかといえば不可能、不可能という割合で、約半数の部局はなんとかできるかもしれない。残りの半数はちょっと疑わしい、というようなことを部局長はお答えになっています。(図12)

図13 図14
図15 図16
図17 図18

そこで女性教官数増加のための数値目標、これを設定することについての賛否をお聞きしましたが、こちらの方ですが、女性教官数増加のための数値目標の設定には、約65%程度の方が賛成、あるいはどちらかといえば賛成というふうにお答えになっています。しかし、その数値目標を部局の評価項目に加えてもいいでしょうかということになりますと、若干減りまして、約半数程度の部局長が賛成したということになります。従って、数値目標設定することに関しては比較的賛成が多かったような印象を受けます。(図13

それでは適切な女性教官の割合の指標としてはどういうものが適当かということですが、まず、男女半数、50%ずつが適当であるというふうにお答えになった部局が1部局ありました。次に国大協の提言程度、20%くらいが適当であるとお答えになったのが30%程度、それから前期課程の割合程度というのが1部局ありまして、後期課程の割合、学部学生の割合、この学部学生の割合というのは、学部学生の割合がそのままだいたい大学院生に移行するので、学部学生でもいいんじゃないかとお答えになっています。だいたいここらへんは大学院の女子学生の割合が適当な指標ではないかと、ほとんどの局長がお答えになっています。女性教官の割合を想定していないとお答えになったところもありますが、これはですね、すでに女性教官の割合がかなり多くて新たに設定する必要がないとお答えになったところが複数含まれていますので、比較的女性教官が多い方にお答えになっているということがわかりました。(図14

そこで各指標別に女性教官の割合を具体的に計算してみますと、現状の名古屋大学は、教授、助教授、講師の割合ですが7.4%、これは現状です。男女半々であれば50%なわけで、国大協の提言とすると20%なわけですが、後期課程の女性の学生の割合は部局別に異なるわけで、また、部局によって教官数も大きく異なります。そこで部局別の女性割合というのを各部局の教官数で算定したところ、27%程度が後期課程の女性割合を反映した教官数ということになります。しかし、この中にはすでに後期課程の女子学生の割合が60%程度まで増えている部局もありますので、それを直接目標にすることはちょっと現実的ではないと考えます。従って修正しまして、多いところは20%、教官数を20%というふうに言っているところが多かったので、それを採用しますと、おおむね22%程度の女性教官割合というものが、適切な女性教官の割合と、本アンケートからは考えられます。しかし、現状の7.4%から20%以上といいますと、かなりのギャップがありまして、これを縮めるということは、先ほども示したとおり、なかなか困難ではないかと考えられます。そこで、(図15

教官採用におけるポジティブアクション、つまり女性をより積極的に採用するということの方策について賛否をお聞きしました。ここでは3つの採用方法を提示して、それに対して賛成あるいは反対ということでお答えいただきました。これは一番ある面ではラジカルな方法だと思いますが、事前に一定の採用基準というものを設定して、それに達した場合、達した人の中に女性がひとりでもいた場合、その方を採用する。そういうような方法についてお聞きしたところ、賛成、または、どちらかといえば賛成というのは4分の1くらいで、態度保留される方がほとんどで、反対といわれる方も4分の1くらいおられました。(図16

次はもうちょっとモディレートな方法で、研究教育業績が同等な場合には女性を優先しようという意見です。中には同等ということをどう判定するのかと、そういうたぶん理科系の方だとおもいますが、そういう意見も何例かありましたが、有意差がないということと考えていただいて、そういうような方法に関しては賛成、あるいは、どちらかといえば賛成という部局が60%程度、26%はどちらともいえない、この意見に対しては反対が比較的少ないという傾向が見られました。(図17

最後にこれは、性別を考えず研究業績のみで判断するということで、このような方法は従来から行われている採用方法で、現在ほとんどの部局ではこのような形で、性別というものを考えず、とにかく業績と研究、あるいは人柄が重要であるとおっしゃる方もたくさんいらっしゃいましたが、そういうもので判断しようというような意見です。これに対しては、やはり70%程度が賛成、またはどちらかといえば賛成でありました。しかし、この意見には13%くらいですが、どちらかといえば反対、または反対という意見もありました。この方々の意見というのは、それは従来型の採用方法なので、現在の採用方法をそのまま続けているだけでは女性教官数の増加は望めないので反対する、そういうような点での反対ということでした。(図18)このようなポジティブアクションについて検討する上で、現在どのような教官採用方法をとっているかを知ることが必要と考えられました。

図19 図20
図21 図22
図23 図24
これは各職種別に、どのような形で教官を採用しているかということをお聞きしたものですが、緑がほとんどすべて公募であるというもの。それから公募の方が非公募よりも多いというもの。公募と非公募が同数であるというもの。非公募の方が公募よりも多い、それからすべて非公募という5つに分けますと、教授職は約70%がほとんどすべて公募によって採用されていることです。助教授は52%、講師は60%、助手も60%程度が、それぞれほとんどすべて公募によって採用をしているというのが現状です。今後どのような方法で教官を採用していったらいいかについてお聞きしたところ、将来の公募制の導入については、ほとんどすべてを公募で行った方がいいというのが35%、53%は原則公募制にして、一部非公募も否定しないという意見です。この二つを合わせて公募が優先されるべきだという意見が90%程度占めています。なかには、1部局ですが、原則非公募がよろしいとおっしゃる方も1部局ございました。さらに、広く人材を集めるためには募集要項をどのように全国的、あるいは全世界的に周知していくかというのが一つの重要なポイントかと考えられます。(図19図20
現在の募集要項の周知方法を調べましたところ、他大学の関連部局に問い合わせる、知らせるというのが一番多く、次にインターネットの人材のデータベースなどに登録するという方法、それから本学のホームページに掲載するという方法、これが関連学会、これは個人的なつてで探すと、それから学術雑誌、という順番になっていました。今後は広くインターネットなどを用いた方法で採用の募集を周知することが多くなるのではないかと考えられます。(図21
募集時に女性教官を採用するための何かしらの工夫をしたかどうかということをお聞きしたところ、工夫したと答えたところは僅かで、ほとんどはまだ工夫はしていないということです。工夫例としては、募集要項に男女共同参画を推進している、あるいは同等なら女性を優先するということを明記したり、あるいは同等なら女性を優先するということを教授会で事前に申し合わせているというような部局であるとか、あるいは、募集の該当分野の女性研究者数をあらかじめ調査しておいたというような工夫がいくつか見られました。また、ヒヤリングのなかで、女性を採用しようと思っても応募者が少なくて採用することができないという意見が多く聞かれました。(図22

そこで、教官採用者応募者に占める女性の割合を調べてみました。これは平成13年度のデータですが、これは各職種別に応募者数に占める女性の応募者の割合ですが、教授職に平成13年度に応募された方の3.2%が女性でした。助教授職に応募された中の10%、やはり講師でも10%程度が女性で占められていまして、この3職合計で約8%の応募者の方が女性でした。

助手に関しては12.3%、だいたい平均しますと応募者の10%程度が女性ということになります。これはヒヤリングで部局長にお聞きした印象とだいたい一致しています。どの方も10人に1人くらいが女性でしょうかねというような印象を話しておられました。(図23)これは3部局が不明というふうに回答していますので、若干そこらへんの誤差があることをご承知下さい。

右は採用者数、平成13年度の採用者数に占める女性の割合で、教授職として採用された方の13%が女性、助教授として採用された方の30%が女性、講師はこの年は女性はいらっしゃいませんで、この3つの職の合計が約17%が女性でした。また、助手に関しては27%の方が女性ということになっています。このように女性が採用される比率がですね、男性の2倍程度になっています。これは最初ちょっとびっくりしたんですが、何回か集計をし直したんですけど、やっぱり値は変わりませんので、おそらく正しいんじゃないかと思っています。ですから、現在業績のある女性の方は名古屋大学に応募されると2倍の確率で採用される可能性があると、そういうことを示していまして、これをお示しすると男性の方がディスカレッジされるんじゃないかと思って出さないようにしようかと思ったんですけど、お見せすることにしました。(図23

採用人事における方策について、その内容について、共同参画委員へ報告する義務を負わせたらどうかという、そういう意見に関しては4割程度の部局が賛成しています。選考委員会に共同参画委員を加えたらどうかという意見に関しては、ほとんど賛成はありませんでした。(図24

図25 図26
図27 図28
図29 図30

次に現在いる女性の大学院生に関して何か研究、あるいはその他の面で支援策をとっているか、ほとんどの部局は明らかにはとっていないという、そういう意見です。その他というのは個人的に指導教官が対応している、そういう意味で何らかの支援をしているというのがその次で、育児、研究環境整備、就職促進に関してはまだあまり支援策は採られていませんでした。(図25

今後どのような支援が必要かということをお聞きしたところ、このように育児・介護支援というもの、それから就職の促進、それから具体的に相談窓口を設置するというようなことを今後考えられるというふうにお答えになっています。(図26

それでは最後に就業就学環境の改善について簡単に示しますが、まず、最も重要な案件であるセクシャルハラスメントに関しては具体的にどのような取り組みを行ったかということをお聞きしたところ、講演会などを行ったというところが40%、授業などでセクシャルハラスメントに関する講義内容を加えたというところが10%くらいありますが、その他半分程度はあまり積極的な、具体的な取り組みはされていませんでした。このセクシャルハラスメントに対する課題としては、必要だと思われたことは被害者への対応や被害者の安全の確保、または、その訴えられた者に対する対応というのが現在かなり課題になっているというふうにお答えになっています。要望に関してはセクシャルハラスメントが起こったら、とにかく全学の委員会に任せたいという意見が多く、それから起こった場合に、法律あるいは心理学、あるいは医学的な専門家の助言がほしい、すぐほしいという意見が次に多く、これはちょっと上と相反しますけど、情報を各部局に開示してほしい、委員会に任せるとしてもそういう情報を知りたいという、そういう意見が見られました。(図27

結果の最後ですが、出産・育児・介護に関しては、具体的に出産・育児に関して事例のない部局が半数以上を占めていました。事例のある部局では本人の申し出により個別に休学などを認めているというようなことが答えられていました。介護については、将来の必要性は認め、大変重要であると認めてはいますが、具体的にこういうことをしてほしいという要望に関しては、まだ具体的なものは上がってはきていませんでした。だいたい結果が以上です。(図28)

次に簡単に、いろんなデータがありましたので簡単に要約をさせていただきますが、本学の提言はすでに多くの構成員に周知されていまして、男女共同参画の理念は70%程度の部局が指示しています。提言の項目のなかでも、ポジティブアクションの採用に関する理念、それに対する理解度というのは、まだあまり高いものではありませんでした。女性教官数の推移から判断すると、2010年までに国大協の数値目標を達成するということは、かなり多大な労力を要するというふうに考えられます。また、この目標達成が可能と回答した部局数も半数にととどまっています。しかし、一方で女性大学院生は着実に増加しており、これらが将来の教官候補者となる可能性が示唆されました。女性教官数値目標の設定に関しては約70%の部局が指示していました(図29)。適切な女性教官数は国大協提言の20%、または後期課程の女性割合、そういうものを支持する部局が多く見られました。ポジティブアクションについては教育研究業績が同等の場合は、女性を優先するという方式に関して約60%が指示していました。現在の教官採用には教授約70%、助教授で60%に公募制がとられており、今後約90%が原則として公募制を導入すべきであると回答しています。また、平成13年度の教授、助教授、講師職への応募者のうち約8%が女性であり、助手では約12%が女性でした。同じく採用者ではそれぞれ17%、28%が女性であり、女性応募者が採用される割合は男性より高い傾向が見られました(図30

以上が結果の要約で、次が最後になりますが、私の仕事は結論を出すのが仕事ではありませんが、いつもの学会と同じように一応結論のスライドをつくらせていただきました。男女共同参画の理念は多くの部局が賛成しています。女性教官数の指標としては20%程度が適当というのは語弊があるかもしれませんが、このアンケートでは20%程度が適当と考えられています。現状では教官応募者に女性が占める比率は10%前後と低く、ポジティブアクションを採用しても近い将来に目標を達成することは困難であると予想されます。しかし、女性の教官応募者が採用される割合は男性よりも高くなっておりまして、今後公募制の導入や積極的な広報活動により、女性応募者を増加させるようにつとめるべきだと考えられます。一方で、女性大学院生数の増加は著しく、将来の教官候補者として、より積極的な支援策を講ずる必要があると考えられます(図31)。
以上です。どうもありがとうございました。

 

 


 

伊藤  どうもありがとうございました。では引き続きまして、後藤先生の方からご報告を 頂きたいと思います。よろしくお願いします。


後藤  医学部保健学科の後藤節子といいます。私は本日の資料(P.96)にあります「名古屋大学医学部女性医師の母体保護に関するアンケート集計結果」を報告します。医学部は女性医師について行ったんですが、医師とか医学部というのは、大学の中で唯一現業部門であります。教官、教職のみならず、さらに診療などに携わる現業部門として大学のなかに属しております。今女性医師が全医師の20%近くなっていると思いますが、医学部医学科の学生で女子学生の占める割合は全国的には40%といわれております。おそらく35%から40%くらいだと思います。

 名古屋大学では現在26.3%です。私はもともと産婦人科医師でありますが、全国的統計を見ましても、平成11年度から産婦人科医師として新しく歩み出す医師の半数以上が女性というふうに、診療科によっては、女性医師の役割が非常に大きいものになって来つつあります。そのような状況のなかで女性医師の母体保護の現状がどのようになっているかということをアンケートしました。

(なお、シンポジウムではアンケートの抜粋を資料としたが、この報告書ではアンケート及びその結果の全文を掲載する。)
 

平成13年の5月から7月にかけて名古屋大学医学部に所属する女性医師に対して行ったものをまとめました。このうち、本日は母体保護項目を中心に報告させていただきます。回答者は65名であります。まず、回答者全員に対して、各教室へ入局した際の上司の女性医師に対する反応、将来の結婚・出産に対する希望などを尋ねました。次に、以降は23名と少ないんですが、妊娠出産を経験した女性医師に対して、妊娠の頃の様子、それから産後休暇を終わって復帰した後のその人たちの様子などを伺ったアンケートになっております。

23名というのはちょっと少ないという印象を持たれると思いますが、大学の中で子供を持ちながら医療を続けている女性というのは、それほど多くはありませんので、これくらいの数も妥当ではないかと解釈していただければありがたいと思います。

 まず、次のページ(P.97)を見ていただきまして、1.アンケート回答者の背景ですが、20代、30代が80%以上を占めております。医師経験年数としましては10ないし15年が60%弱で最も多くなっています。身分としましては大学院生、研究生、非常勤医が80%以上を占めます。婚姻状況は未婚者が40%、既婚者が60%弱です。この中で教官は11名でありまして、16.9%でした。既婚者のうち子供を持っている方が35%、子供さん1人が20%、2人以上が14%強であります。

 「現在の医局、診療科、または教室を選択する際に、考慮した事項」の質問に対して、その医局の先輩女性医師の存在とか、その女性医師が結婚しているかとか出産をしているかとか、上司の女性医師への接し方などは、いずれも考慮せずにそれぞれ選んでいます。また、勤務拘束時間についても同様に考慮せずに選んだと回答された方が多くありました。この結果、教室の選択はどちらかというと仕事内容、希望する診療科、または学問領域であるとか、やりがいのあるものであるというような動機で選択されておりました。

 

それから、「医局に入局する際に教授など上司から、妊娠出産に関して何かストレスを感じることを言われましたか。」との質問に対しては、具体的には「結婚や出産する女性医師は仕事ができない」と言われたり、「結婚や出産の可能性を理由に入局を拒否」されたり、「結婚か仕事かどちらかを選択するように」言われたりしているのは、比較的年輩の世代の40代から50代の女性医師に多く見られました。しかし、20代から30代の人でも入局時に結婚や出産の予定の有無を問われたり、結婚しているだけで仕事内容に制限を受けたりしている人もおられましたし、結婚、出産をすることは困るような旨を、研修先の病院や赴任先の病院で言われている方もいらっしゃいました。逆に女性を平等に扱うと強調されたり、一人前の小児科医になるためには子どもを自分で育てることが大切であると言われた方もみられました。「将来の妊娠出産に対する希望」を尋ねましたところ、20代、30代では90%の女性医師が将来の妊娠出産を希望されておりました。

 

次のアンケート項目から4以下は、妊娠出産を経験された23名の方のアンケート結果になります。回答者の年齢は30代が最も多いものでした。医師になってどれ位で妊娠出産をしているかといいますと、5ないし7年目での出産が多いように回答されています。「妊娠したことを上司にいつ頃告げましたか。」という質問に対して、上司には妊娠してすぐ報告できた人と、妊娠20週くらいで、かなり報告しづらいと思った方もみえました。

次のページに移りますと、「c.その時の周囲の職員の反応はどうでしたか。」と聞いたところ、好意的とか変わらないとお答えした人が90%でした。「d.妊娠何週まで仕事をしましたか。」という問いに対しては、平均は34.1週だったのですが、32から36週までが80%、中には産前休暇が申告できる34週以降も働いた人が9名おりました。

各診療科には当直業務があるわけですが、「e.当直業務はいつまで行いましたか。」という質問に対する答えは、19週が平均でした。妊娠判明後すぐに当直業務をはずしていただいた人も25%ぐらいいましたが、30週から36週まで当直を行ったという方も25%おりました。

妊娠中の仕事の軽減ということがあるわけですが、70%の方が軽減されておりました。多くは軽減されているという答えでした。「g.患者さんの妊娠中の女性医師に対する反応」を尋ねたところ、好意的または変わらないという回答が多くありました。それから次に、「h.ご自身が経験された妊娠出産より考えて、妊娠中の業務はどの時期まで可能と考えますか。」という質問に対しては、だいたい34週ぐらいまでが適当と答えています。なかには36週から38週と答えた方もおりまして、懸命にがんばっている様子が推察できるように思いました。時間外業務については比較的多かったのは中期頃、20週頃まで可能と答えています。

次に、「当直業務について妊娠中はどの程度まで可能と考えますか。」という問いに対しては、平均が13週、ですから妊娠初期までならできるけれどもと書いてありました。なかには、妊娠中期までが5名、32週までできるというふうに答えた人も3名おりました。ただし、32週というと妊婦さんの身体的負担が増して、いわゆる妊娠合併症、妊娠中毒症などの合併症が出てくるというふうに考えますと、やはり最大32週ということを考えるということは非常に困難ではないかと、私は産婦人科医として思いました。
 次に、「i.妊娠中の健康診査はどのように受けましたか。」という問いに対しては、満足に受診できなかった方が23名中2名いました。資料の最後に、労働基準法によって妊婦さんの権利として保証しなければいけない項目の資料を付けてありますが、妊婦診査というのは時間的に保証されているものでありますが、それにも関わらず、有給休暇とか欠勤扱いで受診している方がさらに5名みえました。「j.妊娠中に体調が悪い時期」に対する質問で、一番多くあったのは、つわりの時期でありまして、あとは、妊娠中はまんべんなくそれぞれ体調が悪く、非常に体調がいいと答えた時期はありませんでした。
 

「l.出産後どのくらいで仕事に復帰しましたか。」ということをお聞きしましたところ、産後6週、8週から12週くらいで非常に早く、おそらく大学以外の赴任先の病院でも育児休業を取得する余裕もなくて、即時に復帰しているものと考えます。なかには1年近くたって復帰している方もいらっしゃいますが、これは本人が大学院生であったり、または所属する診療科によって対応が異なるかもしれません。

 復帰後の状況について、仕事は産休前と同じであった、という方がほとんどでありました。また、患者さんの対応はほとんど変わらないし好意的とありました。最後に「5. 妊娠出産を経験するなかで、とても助かったと思われる職場の環境、および職場の仲間との関係などの事柄を書いてください。」とお聞きしましたところ、良かったこととしては上司の理解、それからコメディカルを含む周囲の理解と好意的態度、業務内容に関しては、産前産後の当直と時間外業務の免除、職場内の保育施設という、働く環境が非常に大切であるということが述べられ、それによって助けられたという答えが多くありました。

 

以上をまとめてみますと、将来の妊娠出産に関しては若年女性医師の90%以上が希望していますが、結婚出産に伴うブランクからのキャリアの遅れによる職場復帰への不安、保育者の確保の問題、同僚への負担を思うことなど、さらにこの間の母体保護の保障など、仕事上の不安をほとんどの人が持っているという結果でした。職場の環境としては妊婦健康診査のための時間とか妊産婦の通勤緩和、休憩時間、仕事の軽減化、育児休業などが保証されていると答えた職場は非常に少なく、これらの項目は本人が申請して初めて得られるものですが、なかなか環境として言い出しにくいとか要求しにくいということがありますので、明確に制度化と文章化しての保障を求めるという人が約半数ありました。被ばく業務からの免除を保証されている人も、半数にとどまりました。医療現場の近くに存在しながら、女性医師の母体保護に関する健康管理が軽視されている現実がみえたように思いました。以上です。(拍手)

伊藤 どうもありがとうございました。飯高先生、後藤先生それぞれアンケート結果についてご報告を頂きました。当然のことながらご質問あろうかと思いますけども、ご質問については第3部に頂きたいと思います。ご了解を頂きたいと思います。