基調講演「男女共同参画社会」

講師 文部科学省生涯学習局
主任社会教育官 名取はにわ氏


世界と日本の動き
基本法の前文
男女共同参画社会の形成とは
ポジティブ・アクションとは
5つの基本理念
国際比較等
基本理念の推進について



皆様、こんにちは。第1回名古屋大学男女共同参画シンポジウムにお招きいただきまして、本当に光栄でございます。
本日は、今ご紹介にありましたように、男女共同参画社会基本法を中心としてお話させていただきたいと思います。と言いますのも、この基本法は日本の政策方針を決める法律の一つとして、平成11年に全会一致で成立したのですが、大新聞はほとんど記事にしてくれませんでしたし、法律の重要性に比して、ひそやかに世の中に出てしまったのです。法律というのは人に知られないとしようがないことがございますので、ぜひこの場をお借りして、ご説明させていただきたいと思っております。

*名取氏講演レジュメ

世界と日本の動き

その前に、基本法に至るまでの世界と日本の動きについて、少しお話したいと思います。レジュメをめくっていただきますと、「国際婦人年以降の国内外の動き」というのがございますので、それを見ていただきたいと思います。

1975年のところに「国際婦人年」とあります。1975年は、ベトナム戦争が終結した年でもあり、そういう年として記憶に残っている方もおられると思います。今も、国連はだいたい毎年、例えば「国際ボランティア年」などいろいろなテーマを主唱しておりますが、1975年は、「国際婦人年」でありました。その頃は、たとえば国連にいる女性は2種類−大使の夫人か秘書―であり、国連といえども、あまり女性が活躍していなかったと言われています。

この年にメキシコで、「国際婦人年世界会議」が開催されまして、ここで女性の地位向上のための「世界行動計画」が採択されます。今に至るまで、国連というのは、割と同じ手法をとっているようでして、まず「世界行動計画」というようなものを採択し、それを各国が持ち帰りまして、それぞれの「国内行動計画」のようなものを作り、その進捗状況を点検しながら、世界的にだんだんと進んでいくというようなことをやっております。

このような国連の動きを受けて、日本では、総理府に「婦人問題企画推進本部」が設置され、省庁を横断的に取り組むこととし、「国内行動計画」を作ることとしました

これに引き続く10年というのは、「国連婦人の十年」で、国連は、婦人の地位向上のために、10年間いろいろと手を打ってくるわけです。

1979年には、国連総会で「女子差別撤廃条約」が採択されました。1980年には、コペンハーゲンで「国連婦人の十年」−平等、発展、平和中間年世界会議が開催され、ここでは日本も参加して女子差別撤廃条約の署名式もやったのです。

1985年には、「国連婦人の十年」―平等、発展、平和ナイロビ世界会議が開催されました。

日本もこの条約を批准するために、「国籍法」の改正と、「男女雇用機会均等法」の公布と、女子のみ必修であった高等学校の家庭科を男子にも学ばせるという方針を出しまして、ちょうどこのナイロビで世界会議をやっているときに、日本の批准が発効するなど、非常に盛り上がったのです。

その後、1995年に、北京で「第4回世界女性会議」が開かれまして、このときに日本中から約5千人の方々が中国に行きました。主に女性たちでした。当時、各地の地方空港からチャーター便がどんどん中国に行きました。このときは政府間会議と並行してNGOの会議もございまして、そこで日本の女性たちは、日頃の成果をワークショップ等で発表するなど、その存在を世界的に印象付けたのです。

このとき参加された5千人の方々は、日頃自分たちが問題だと思っていることが、実は世界の女性たちの共通問題であったということがわかり、非常に連帯が進みました。

しかしながら、国連というのは、政府が加盟する機関です。ですから、地方公共団体は国連とは関係ないし、まして個人は関係がありません。ですから、政府は国連の行動計画などで縛られますので、それぞれ計画を作ったりして進みますが、自治体はどうか、個人はどうか、ということになりますと、なかなか徹底しなかったということがありました。それが「男女共同参画社会基本法」の背景になるわけでございます。

つまり、法律であれば国民の代表が作るものですので、国民も地方公共団体も皆、それなりの責務を担うというようなことになるわけです。男女共同参画社会を推進するには基本法を作ろうというようなことが審議会で言われまして、そこで、大澤先生もおられました「男女共同参画審議会」答申というのが出されたわけでございます。おそらく先生が後で触れられると思いますが、平成8年7月に男女共同参画審議会が「男女共同参画ビジョン」を答申されました。北京の第4回世界会議の翌年のことです。

それを受けまして、政府が「男女共同参画2000年プラン」に基本法の検討を盛り込みました。政府として、基本法の検討を約束したわけです。しかし、直ぐに基本法には行きませんでした。といいますのも、男女共同参画審議会自体が、政令に基づくもので、平成9年3月末には消滅する時限の組織でありました。まず、恒久の審議会を新設しなくてはならなかったのです。そのためには法的な措置が必要で、平成9年3月、「男女共同参画審議会設置法」が成立しました。

平成9年6月から、いよいよ法律に基づく新たな「男女共同参画審議会」に、「男女共同参画社会の実現を促進するための方策に関する基本的な事項」について諮問をし、平成10年11月、「男女共同参画社会基本法について」という答申を出してくださったわけです。

審議会が答申を出された後は、政府の仕事となり、、当時総理府「男女共同参画室」は、内閣の法制局等ともいろいろと案文等について相談しまして、平成11年2月に法案を提出することになるのですが、実は基本法というのはなかなか難物なのです。

どうしてかというと、基本法というのは、国民の権利義務に直に関わりがあるものではないからです。法律は、原則として国民の権利義務にかかわるので、だからこそ国民の代表者が国会に一堂に会して決めることになります。

たとえば、自動車を運転して、空いている道をスイスイ行きますと、突然覆面パトカーが現れて、「25キロ以上の速度オーバー」と、捕まったとします。「別に誰も傷つけていない、道もガラガラだ。」といっても聞いてくれませんね。罰金を払わなければなりません。それはなぜかというと、法律に決められているからです。

それから、たとえば、民法で連帯保証人というのがあります。知人の借金の連帯保証人になりまして、その知人が夜逃げかなにかしてしまいますと、連帯保証人は、借金を返さなければいけません。自分は一銭も使っていなくても、他人の借金の肩代わりをしなければならないなんて、これほど理不尽なことはないわけですが、法律上しかたないのです。

こういうふうに、国民の権利や義務に関わることが典型的な法律なのです。

ところが基本法といいますのは、それに反しましても、一銭の罰金も払う必要もないというようなものなのです。それでは一体何なのかというと、国の方針を決めるもので「プログラム法」などと言われていますが、国政における重要分野におきまして、制度や政策に関する基本方針を明示したものなのです。他にも、教育基本法、科学技術基本法、環境基本法などがあります。

男女共同参画社会基本法は、「これから日本は、男女共同参画社会をめざしますよ。そのために理念を定め、計画を作って、みんなで推進していきますよ。」という宣言するわけです。従いまして、今後この法律ができましたら、その後はこの理念に反するような政策はできない。そういう意味では、日本の方向を縛るという意味はあります。

このように大きな意義をもつものなのですが、ちょっと普通の法律とは違うのです。ですから、先ほど基本法というのは難しいというふうに申しましたのは、理由がございます。たとえば、この法律を作らないと日本の経済が持たないとか、予算が執行できないとかいうことになりますと、これは一生懸命作らなければいけなくなりますが、基本法は、今日、明日の国民の生活に直に関わるものではありません。そうしますと、一体だれがそれを望むのかということになりますし、どうして今作るのかということになりますし、ぎりぎり詰めていくと、非常に成立が難しい法律であるということになります。

まして平成11年の通常国会というのは、提出される法律案が非常に多くて、行革の関係や地方分権の関係などさまざまな法律案があったのです。国会は日程がありますから、提出された法律が多いと、審議日程がきつくなり、仮に提出できても期間内に成立しないと廃案ということになります。そういうわけで、提出するだけでも大変なわけです。また、政府が法律案を国会に提出するには、事前に与党の了承を得る必要があり、その後閣議で国会に提出することを決めるわけです。

本当に幸いなことに、うまく提出されまして、とんとんとご審議いただき、参議院、衆議院共全会一致で可決、平成11年6月に成立・公布されました。今思い出しても、当時、男女共同参画担当大臣だった野中弘務官房長官の陣頭指揮があったことが、誠に大きかったと思うのであります。

基本法の前文

それでは、このように難関を通った基本法について説明していきたいと思います。資料を開けていただきますと、「男女共同参画社会基本法」というのが出てきます。

まず、前文が付いています。この前文は、政府が提出した時にはついていませんでした。この法律は参議院先議でありましたが、参議院で審議中、議員の修正により付いたものです。その理由は、このような法律はできるだけわかりやすくしたいが、法律用語というのは難しいから、法律のエッセンスを前文に謳おうではないかということでした。

「我が国においては、日本国憲法に個人の尊重と法の下の平等がうたわれ、男女平等の実現に向けた様々な取組が、国際社会における取組とも連動しつつ、着実に進められてきたが、なお一層の努力が必要とされている。

一方、少子高齢化の進展…」、ここに少子高齢化が出てくるのですが、男女共同参画社会の実現というのは、少子化対策と重なるところがございます。

「…国内経済活動の成熟化等我が国の社会経済情勢の急速な変化に対応していく上で、男女が、互いにその人権を尊重しつつ責任も分かち合い、性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮することができる男女共同参画社会の実現は、緊要な課題となっている。

このような状況にかんがみ、男女共同参画社会の実現を二十一世紀の我が国社会を決定する最重要課題と位置付け…」、ここが議員でなければできない条文です。「最重要課題」というと、これは唯一になります。私たち役人が作るとすれば、せいぜい「最重要課題の一つ」といえるかどうか。ここはまさに唯一無二の「最重要課題」と位置付けていただいています。

「…社会のあらゆる分野において、男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の推進を図っていくことが重要である。

ここに、男女共同参画社会の形成についての基本理念を明らかにして…」、この基本理念というのが、どの基本法にもだいたい出てきます。「…基本理念を明らかにしてその方向を示し、将来に向かって国、地方公共団体及び国民の男女共同参画社会の形成に関する取組を総合的かつ計画的…」、ここに計画が出てきますね。「…計画的に推進するため、この法律を制定する」以上が前文で、この法律がどんな法律かがわかるようなしくみになっています。

男女共同参画社会の形成とは

第1条「目的」は、前文と重なりますので、説明を省かせていただきます。

定義規定が第二条にございます。第一号は「男女共同参画社会の形成」ということを定義しています。「男女共同参画社会」を定義すればよさそうなのに、なぜわざわざ「形成」まで定義するのかということなのですが、これは、男女共同参画社会というのは、常に形成を心がけなければいけないけれども、実は非常に難しいものなので、一旦このような社会が形成されたとしても、次の瞬間にはまた崩れているかもしれない。だから営々といつでもこれを形成をめざさなければいけないのだということで、「形成」まで入っています。

「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会」、ここまでが「男女共同参画社会」の定義です。これだけでも結構長いです。3つの要素から成立っています。1つ目は「男女が、社会の対等な構成員」であること、男女どちらが優先するものではなく対等である、ということです。2つ目は、自分の意思によってあらゆる分野におけるいろいろな活動に参画する機会が確保されているということ。3つ目は、男女が共に、利益を得、責任を担うということです。男女が個性と能力を発揮し、支え合いながら、共に栄える社会を形成するということです。

ポジティブ・アクションとは

次に第2号では「積極的改善措置」が定義されています。先ほどから再三「ポジティブアクション」と使われておりますが、その「ポジティブアクション」を日本語に直したのが「積極的改善措置」です。法律上はじめて定義されたものであり、また、この法律の大きな特徴の一つです。

ここに「前号に規定する機会」というふうにはしょって書いてありますが、これは、第1号「男女共同参画社会の形成」の中の、「自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会」、これを指しております。ですから丁寧に言えば、「自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会に係る男女間の格差を改善するため必要な範囲内において、男女のいずれか一方に対し、当該機会を積極的に提供することをいう」となります。

現行憲法下の法律ですから、憲法第十四条の平等規定に反するものではありません。積極的改善措置により、男女平等を達成しようというものです。ここでご注目いただきたいのですが、「女性に対し」とは書いていません。「男女いずれかの一方に対し」と書いてありますから、男性に対する「積極的改善措置」もあり得ます。この「男女共同参画社会基本法」は、どこにも「男性」あるいは「女性」と、片方だけを規定しているものはないのです。ただ、現在の状況を考えますと、圧倒的に女性に対して「積極的改善措置」を提供することが多いと思いますが、先ほど申しましたように、男女共同参画社会というのは、たえまなくその形成をめざさなければいけないので、やがて男性向けの「積極的改善措置」が必要になる世の中になるかもしれません。

この「積極的改善措置」の具体的事例は何かということですが、実はこれはかなり幅が広い、知恵と工夫によって様々な措置が考えられると思っております。

国の資料等ではよく、審議会委員への女性委員の参画を挙げています。今は平成17年度末までに30%をめざしておりますが、昭和50年当時はわずか2.4%だったのです。増やしてくださいとお願いすると、その当時から言われることは今と同じ、「女性の人材がいない」ということです。「しかるべきポストに女性がいない、推薦団体から女性を推薦してこない、この分野の専門家に女性はいない。無理して登用すると逆差別になってしまう。」と。それでも少しずつ女性を増やしていただき、おかげさまで今は3割が目標になっています。やはり、育てれば人はいますし、探せば人もいるのです。

国大協で2010年までに女性教員を20%にしようというのも、積極的改善措置です。

各地方公共団体に女性センターができておりますが、これも、女性たちが勉強などをして力を付けて行こう、情報を得ようとする場合の場所がない等の要望に対応する形でできておりますので、「積極的改善措置」の一つといえると思います。

その他、よく会社等でお話していますと、「登用しようとしても、うちは女性の人材がいないんだよ。」と言われることがあります。よくよく聞いてみますと、幹部は幹部養成研修を受けた人から登用するのだけれど、そこにそもそも女性がいないと。だけど女性の従業員はいるということです。さらに聞いてみますと、幹部養成研修に参加する条件があって、それにはその前段の研修を受けなければいけないということがあって、その研修がちょうど女性の出産、子育て期に設定されている場合があるのです。たとえば30歳が上限になっていても、会社の人事の方は「うちは男女差別しませんよ。女性にはちゃんと声をかけています。声をかけるんだけど、断られちゃうんですよ」というのです。この時期は女性にとって、子育てとか出産とかそういうとき、非常にお忙しい時期なので、断らざるを得ない方も多いと思います。女性の方々がようやく手が離れて、「ぼちぼち研修に行けますよ」と手を挙げると、「だってあなたもう30過ぎちゃってるじゃない、だめだよ。今更年の若い人に混じるのも可愛そうでしょう。」というわけで、幹部候補生に女性がいなくなる。人事の担当者に言わせると、「男性だって30で切っているんだよ、女性も30で切ったって平等だろう」ということなのですが、「ちょっと待ってくださいよ」というのが、この「積極的改善措置」です。幹部候補生に女性がいないのはなぜか、を丁寧に見ていって、制度を改善しようということです。もし、育児や介護など理由があって研修に参加できない場合は、30歳を超えても参加できるようにしてあげる。それだけでずっと違ってくるのですね。そのような制度をすることによって、子育てをどうしてもやらなければならない男性の職員や、あるいは介護に携わっている男性の職員にも実はやさしい制度になるわけです。

ですから、相手の立場に立った柔らかい気持ちで、「どうして出にくいのかな?」と、より親身になって考えれば、必ず解決策があるわけで、柔軟に制度を作っていきましょうというのが、この「ポジティブアクション」の制度の本旨であると思っています。

最近「ユニバーサルデザイン」がありますが、障害を持つ方にとって使いやすい道具というのは、実は健常者にとっても使いやすい。「ポジティブアクション」をやりますと、女性だけでなく、男性にも、もっというと人間にやさしい制度ができてくるのではないかなという期待をしているところです。これについては、柔らかい温かい心でいろいろと探していただければありがたいと思っております。

5つの基本理念

次に、「基本理念」が5つ出てまいります。5つの理念というのは、いつもこの法律のいわば背骨のようなところでして、最も重要なものになってまいります

第1の理念は、第三条「男女の人権の尊重」と、人権が掲げられています。「男女共同参画社会の形成は、男女の個人としての尊厳が重んぜられること」となっております。女性に対する暴力やセクシュアル・ハラスメントは、これこそ個人の尊厳を踏みにじるものですので、ここに含まれております。

「男女が性別による差別的取扱いを受けないこと」と書いてあります。「差別しないこと」ではなくて、「差別的取扱いを受けないこと」となっております。要するに、差別する方が「差別していない、していない」というようなことで言い抜けができないような規定になっております。

それから「男女が個人として能力を発揮する機会が確保されること」、これはまさに、男だから、女だからということではなくて、個人の能力が十分発揮される機会が確保されるということを明記しております。「その他の男女の人権が尊重されることを旨として、行わなければならない」となっております。

次の理念は、第四条「社会における制度又は慣行についての配慮」で、非常に長い文章なのですが、その中の「かんがみ」まではどちらかというと飾り言葉というようなものでして、肝心なところは、「社会における制度又は慣行が男女の社会における活動の選択に対して及ぼす影響をできる限り中立なものとするように配慮されなければならない。」

具体例は何かということですが、法律を作る当時によく言われておりましたのは、年金の3号被保険者問題のようなことでした。この制度によって、年金の掛け金を払わないといけないレベルの収入を得るのを自粛するということで、能力があってもそれを発揮するのを妨げるような制度というのは中立ではない、というようなことが議論されておりました。

3つ目の理念は、第五条「政策等の立案及び決定への共同参画」、政策決定も男女で、ということです。「国若しくは地方公共団体における政策」、国や地方公共団体は政策ですね。「民間の団体」は会社なども含みますが、「民間の団体における方針」、「立案及び決定」ということは、政策と方針の入口である立案から出口である決定まで、男女が「共同して参画する機会が確保されることを旨として、行わなければならない」ということです。

4つ目の理念が、第六条「家庭生活における活動と他の活動の両立」で、「家族を構成する男女が、相互の協力と社会の支援の下に、子の養育、家族の介護その他に家庭生活における活動について家族の一員としての役割を円滑に果たし、かつ、当該活動以外の活動を行うことができるようにすることを旨として、行わなければならない」となっていまして、これは明確には書いていませんが、どちらかというと男性には「もう少し家庭にも参画してください」というメッセージが入っているわけですね。

その次が、第七条「国際的協調」でして、先ほど申しましたように、国連等とも密接に進んできましたので、「国際的協調の下に行わなければならない」としております。

国際比較等

次に、このような5つの理念ができた背景というのを見てみたいと思います。資料の2ページを見ていただければと思います。「男女共同参画社会の実現の必要性」とありますが、その一番上に「女性の政策方針決定過程への参画」というのが出てきています。

ここに、UNDP(国連開発機構)の2001年「人間開発に関する指標の国際比較」として、HDIとGEMを載せています。HDIというのは「人間開発指数」のことで、日本は9位という、昔3位だったこともあるのですが、でもまあまあ先進国の中に入っています。右の中ほど、HDIを見ていただきますと、「基本的な人間の能力がどこまで伸びたかを測るもので、基礎となる『長寿を全うできる健康的な生活』、『知識』及び『人並みの生活水準』の3つの側面の達成度の複合指数である」ということにしてあります。具体的には平均寿命と教育水準、国民所得を用いて算出しています。

なぜこうなのかというと、どんなに能力があっても、ある程度寿命がなければ能力が発揮できない。それからどんなに能力があっても教育を受けていなければ、なかなか能力を伸ばせない。どんなに命が長く、教育を受けても、その日暮らしで食うや食わずであれば、なかなかその能力を伸ばせないということで、この3つの要素に絞って「人間開発指数」を毎年UNDPが出しているのです。

次のGEMですが、これは「ジェンダー・エンパワーメント指数」です。これで見ますと、日本は31位となっていまして、HDIから随分下がります。また、日本より上に、必ずしも先進国ではない国も結構あります。下に手書きの字で2002年の数字が出ていますが、つい最近公表されましたのを見ますと、HDIの方は9位で変わらずなのですが、GEMの方が32位で1つ落ちてしまいました。だいたい日本は30数位を行ったり来たりしているのです。

この「ジェンダー・エンパワーメント指数」というのは何かというのですが、右側の方に出ていますね。「女性が積極的に経済界や政治生活に参加し、意思決定に参加できるかどうかを測るもの。」ということです。具体的には、「女性の所得、専門職・技術職に占める女性の割合、行政職・管理職に占める女性の割合、国会議員に占める女性の割合を用いて算出」しています。

日本の場合は、行政職・管理職に占める女性の割合と、国会議員に占める女性の割合が低いので、低くなってしまうのです。要するに、日本は女性を有効活用していない国であります。

次のページですが、今、日本は少子化まっしぐらでありまして、1995年には「生産年齢人口」、15歳から64歳までの人口がピークになって以後、減るばかりです。もはや第三次ベビーブームはありません。これは労働力率で出していますが、教育界における衝撃も大きくて、大学に入る年齢の人が、どんどん減っていくという時代にこれから入ってきます。ですから、各方面にかなり深刻な影響が出るはずです。

今現在、割と失業率が高いのですが、今後労働力としてどこが期待できるかというと、女性にもっと期待できますよというようなのが真ん中のグラフです。日本の女性の「年齢階級別労働力率」を見ますと、一旦20代前半で仕事に就くのですが、出産、育児期になりますと、退職する人が増えて、落ち込みます。子ども達が育ち上がりますと、再び仕事に就きますので、M字カーブを描きます。このM字カーブの下の方に、「就業希望率」という「本当はいい仕事があったら就きたい」と言っている人たちの率が示してあります。、これは専業主婦志望者ではないのです。ずっと家にいたいという人はここに入ってこないのです。この「就業希望率」を「労働力率」に足しますと、上の紫の点線「潜在的労働力率」になって、M字が消えるということになってきます。

その下が、「女性の年齢階級別労働力率の国際比較」でして、日本はM字ですが、他の先進国は、日本よりも女性が働いているということがわかると思います。

次のページに、「女性(25〜34歳)の労働力率と出生率の国際比較」があります。日本では、「女性がこれ以上働くと、子どもがますます産まれなくなるよ。だから女性は家に戻らないといけない。」という話がすぐ出てくるのですが、本当にそうだろうか、というのがこれです。横軸が、25歳から34歳の女性の労働力率です。ですから、右に行けば行くほど、女性が働いている国です。縦軸は、合計特殊出生率でして、上に行けば行くほど子どもが産まれている国なのです。

日本よりも女性たちが働いていて、子どもが産まれる国はいくらでもありまして、先進国は結構そうなのです。女性が働いている国ほど、子どもも生まれている、見事に相関しています。日本というのは、意外に女性も働いていないし、子どもも産まれていない国だというのがわかります。これから見ますと、日本がどうも少子化に困っているのは、働きながら無理なく産み、育てるという環境がまだまだ整っていないのではないかということです。やはり、そういうものを整備した国は、結構、出生率も回復しているということになるわけです。

この辺は、国の施策などと関係があるのかもしれませんが、次はもう少し家庭において、特に男性にも考えてほしいということがありまして、「夫婦の生活時間調査」をご覧下さい。

上が共働き世帯、下が夫だけ働き妻は専業主婦の世帯の1日の活動の内訳をみたものです。特に注目していただきたいのは2次活動(家事・育児・介護)のところなのです。共働き世帯では、妻が24時間の内、4時間10分やっていますが、夫は細くて見えないくらいの21分です。片働きの方は、妻は7時間、夫が26分。

これから言えますのは、日本の男性は、妻が働こうと働くまいとライフサイクルは頑強に変えないということがありまして、ここには出ていませんが、育児に関わる時間も国際比較すると、日本は先進国では最下位レベルなのです。

こういう状況で女性に「外に出て働け」ということになると、どうなるかというと、家事の負担はそのままで仕事の分が上乗せされ、「男は仕事、女は家と仕事」という、女性にとって過酷な役割分担になってしまいます。これでは女性はなかなか子どもが産めないのではないかということです。先ほど基本理念に、家庭における共同参画がありましたが、今申し上げたことも背景にあります。

基本理念の推進について

次に、こういう基本理念をどうやって進めていくかということですが、法律にまた戻っていただきまして、八条「国の責務」、資料の2ページ目(P.49)の真ん中あたりです。「国は、第三条から前条までに定める男女共同参画社会の形成についての基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、男女共同参画社会の形成の促進に関する施策」、ここでカッコして「積極的改善措置を含む。以下同じ。」となっています。これは法律のお約束でして、以後、この法律に「男女共同参画社会の形成の促進に関する施策」というまとまった言葉が出てきますと、一つひとつカッコはついておりませんが、必ず「積極的改善措置を含む」と読むこととなります。この法律には、ここを含めて15回「男女共同参画社会の形成の促進に関する施策」という言葉が出てきます。そのたびに「積極的改善措置を含む」とことになりますから、先ほど「積極的改善措置」が非常に重要な定義だと申しましたけれども、実はこの法律には、全編に「積極的改善措置」がちりばめられているのです。

国は、積極的改善措置を含む男女共同参画社会の形成の促進に関する施策を「総合的に策定し、及び実施する責務を有する」となっています。

地方公共団体には、第九条地方公共団体の責務で「基本理念にのっとり、男女共同参画社会の形成の促進に関し、国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の特性に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」となっていまして、基本理念からはずれることはできないわけです。国の施策に準じた施策を策定するわけですから「積極的改善措置」を含むことになります。その上で、地方の特性に応じた施策を上積みと横出しをすることになります。要するに「国の施策よりもやせ細らせてはいけませんよ」というのが、この「地方公共団体の責務」です。

それから第十条「国民の責務」ですが、「国民は、職域、学校、地域、家庭その他の社会のあらゆる分野において、基本理念にのっとり、男女共同参画社会の形成に寄与するように努めなければならない」となっております。「寄与する」というのは「協力する」ぐらいの意味ですから、基本理念にのっとって協力してくださいということです。

国会で、「この法律を作ると、家で家事をしない男性は罰金をとられるのか」というようなご質問があったのですが、これは先ほど申しましたように基本法という性格上、それは各ご家庭で罰金をとるようなことをお決めになるのは自由ですが、法律としては強制するものではありません。

第十一条に「法制上の措置等」があります。このような条文は、いろいろな基本法にありますが、ここでは「政府は、男女共同参画社会の形成の促進に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない」とあります。しかしながら、これがあるからといって自動的に予算が増えるものではありません。

それから十二条では、「年次報告等」ということで、政府は、毎年、講じた施策及び講じようとする施策を文書として、国会に報告をするというようなことあります。これは男女共同参画白書として、皆様にもお読み頂けるものです。

次の十三条以下に基本計画が定められています。

第一条(目的)に「男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の基本となる事項を定めることにより、男女共同参画社会の形成を総合的かつ計画的に推進することを目的とする」と規定されていますが、国及び地方公共団体は、基本計画を定めて計画的に推進していこう、ということです。

第十三条では、「男女共同参画基本計画」として政府は、「男女共同参画基本計画」を定めなければならない規定しています。これも、「男女共同参画社会の形成の促進に関する施策」ですから、「積極的改善措置」を含みます。このように、基本計画には必ず積極的改善措置が入るという作りになっています。

十四条では「都道府県男女共同参画計画等」として、第1項、第2項で都道府県が「都道府県男女共同参画計画」を作ることが義務付けられています。

第3項で、市町村は、「市町村男女共同参画計画を定めるように努めなければならない」と、義務ではなく努めていればいいという規定です。これは理由がありまして、この法律を作るときには、まだ市町村で計画を作っていたのが14%ぐらいだったのです。こういうときに義務付けをしますと、市町村は義務を果たそうとして、コンサルタントというのでしょうか、計画をぱっと作ってくれる会社に頼んでしまい、住民が知らないうちに、できあいの計画ができてしまうおそれがありました。そうして作った計画は、なかなか根付きませんので、そういうことがないように、あえて「努めなければならない」となっております。永遠に努めていればいいというものではないので、住民の意見を入れながら速やかに、作っていただきたいものです。

次に十五条(施策の策定に当たっての配慮)ですが「国及び地方公共団体は、男女共同参画社会の形成に影響を及ぼすと認められる施策を策定し、及び実施するに当たっては、男女共同参画社会の形成に配慮しなければならない。」となっています。

「基本計画」に入らない施策というのは山ほどありますが、計画外の施策であっても、男女共同参画社会の形成に影響を及ぼす政策は多いことでありましょう。ここでは非常に広く網をかけておりまして、そのような「施策を策定し、及び実施するに当たっては、男女共同参画社会の形成に配慮しなければならない。」ということで、配慮を義務付けているということがあります。

十七条が、基本法にしては珍しい条文なのですが、「苦情の処理等」です。

「国は、政府が実施する男女共同参画社会の形成の促進に関する施策又は男女共同参画社会の形成に影響を及ぼすと認められる施策についての苦情の処理のために必要な措置及び性別による差別的取扱いその他の男女共同参画社会の形成を阻害する要因によって人権が侵害された場合における被害者の救済を図るために必要な措置を講じなければならない。」と、定められています。平成11年当時は、当面は行政相談委員とか人権擁護委員に受けてもらいましょう、でも引き続き検討しましょうと、言われていたところです。

後は、第二十一条から二十八条までは、「男女共同参画会議」について規定しています。これは、内閣府に置かれているものでして、議長である内閣官房長官及び内閣総理大臣が指定する国務大臣と、内閣総理大臣が任命する有識者によって構成されています。

時間がとても迫ってまいりましたので、最後に、ちょっと資料の説明をしたいと思います。男女共同参画社会基本法公布以来、地方でできた条例の一覧表です。

その次が「学校管理職等における男女別状況」でして、大学の教授については、平成13年、女性は8.3%に過ぎない、というようなことが出ています。

それから、基本法にありました「男女共同参画基本計画」が平成12年12月12日に閣議で決定されまして、それを今、推進している最中ですが、たとえば99ページには「イ 高等教育の充実」に、「高等教育機関における男女共同参画の推進」というのがあり、「高等教育機関のおける教育・研究活動において、ジェンダーに敏感な視点が組み込まれるように努めるとともに、様々な学問分野への女性の参画を促進する。

国立大学協会の男女共同参画に関するワーキング・グループが行った、国立大学における男女共同参画を推進するための提言等も踏まえ、学術・研究の分野における女性の参画の促進に努める。」となっています。

ほかにも、たとえば101ページの「オ 女性学・ジェンダーに関する調査・研究等の充実」もあります。

なお、日本学術会議は、女性会員比率を今後10年間で10%まで高めるという目標を掲げております。

というところで、時間がちょうど尽きてしまいまして、早口で申し上げてちょっとわかりにくかったかもしれませんが、後で大澤先生が最近の状況等いろいろ話してくださると思います。どうもありがとうございました。(拍手)